今日を人生最後の日だと決めた。15歳の誕生日に人生終了。切りがいい。
15年の人生なんて、短いと人は言うかもしれない。
けれど、死ぬ程長かった。
母さんと、その腹の中に居た妹が死んで9年。
酒に溺れ、パチンカスになり、稼業の中華料理店「昇竜軒」を捨てようとする親父を、「母さんが愛した店だから」と支え続けてきた。
だというのに、そんな親父も蒸発。借金だけが残った。
元々、人とのコミュニケーション能力に長けている方じゃない。学校だって親父のせいで行ったり行かなかったりで友達も居ない。
学校行ってないんだから額も無い。
親父が蒸発する際に残した金ももうすぐ底をつく。
思い起こせば親父への恨み言しか出てこないが、その親父のおかげで、この世に未練なんか無かった。
ノートの切れ端に遺書も書いた。
オンボロパソコン(一応店の為に、パソコンと電話だけはきちんとしてたのだ)で調べた自殺方法の道具も全部そろえた。
シミュレーションもばっちりだ。
お世辞にもお洒落とは言いがたいシャツとジーンズに着替えて、寝ていた布団と片付ける。
がらんとした部屋。
誰も居ない寂しい家。
仏壇の母さんの遺影に手を合わせる。
「ごめんな、母さん…」
天寿を全うしてやる事ができなくて。
でも、1ヶ月半も、親父を待ち続けたんだ。結構辛抱強かったと思うよ、俺。
チーン、と響く鈴の音にゆっくりと目を閉じながら、そう心の中でつぶやいた。
朝の日課だけはこなして死のうと思ったのだ。
店の玄関先へ向かう。
親父は一体どういう所から金を借りたのか、毎日店の玄関には、
「金返せ泥棒」だの「死ね」だの物騒な言葉の連ねられた張り紙が張ってある。
ついでに言えば、毎日毎日、見た目からしてヤのつく自由業の方っぽい取り立て屋もくる。
漫画とか、ありきたりな二時間サスペンス見たいな事が、現実にあるもんなんだなぁ、と実際その現状に身をおいて、しみじみと思ったものだ。
なので朝起きたらまず、それらの張り紙をはがして汚された玄関先を掃除する。
親父が居なくなってしまった現状、開かない「昇竜軒」の為に俺が唯一してやれることはそれだけだった。
日々うんざりしていたその掃除も、今日が最後だ。
そう思うと、嫌じゃない。
むしろ清清しい気分で、店のドアを開ける。
「――なんだ、これ。」
が、玄関先にいつもの惨状は無かった。
あるのは
「……蒸篭…?」
7段がさねの蒸篭が、ドアの前にちょこんとひとつ。
否、“ちょこん”なんて擬音が許される程かわいい大きさじゃあ、ない。
金貸しめ。
趣向を変えてきやがったのか…、といっても、どういう趣向なんだ、これは。
蒸篭には、映画のキョンシーが額に貼っていた様な御札がひとつ貼られている。
中華っぽい模様とともに、
「花華飲茶」という漢字が書かれていた。
ますます訳がわからない。
爆発物か何かかもしれない。
とりあえず、ひとつおいてあるだけなら、きちんと片付いているともいえるわけだし、ほうっておいても問題ないだろう。
今から死のうとしている時に、爆弾だか蒸篭だかに取合っている暇もない、とほうっておいて俺はドアを閉めようとした。
その時
「ちょっ……待ってくださぁぁい!!」
「……は?」
ぎょっとした。
蒸篭の中から人の声がしたのだ。
年頃の近い、女の子の声。
「てめっ、普通ドア開けてこんなんあったら、蓋開けて確認すんだろーが!!」
続けて、少年の声。
「ロンさん…そんな事言ったら開けてもらえるものももらえなくなっちゃいますよう…」
今度は、さっきとは違う少女の声。
「ああああ!!やかましい!いいから早く出すのだー!!!」
また違う少女の声が、切れた。
出せっていうのは、この蒸篭からって事か?
いやいやまさか。
ありえない。
普通の蒸篭だ。人の入れる大きさじゃない。
屋内に引っ込みかけた体をまた外に出し、様子を伺う。
よく見ると蒸篭は、ごとごとと小さく揺れている。
気味が悪い。
生憎、幽霊なんかは信じないタチだったが、それ以外に説明のつかなそうなもの。
「あ、だいじょーぶだよー、ゆーれーとかじゃ無いからー」
蒸篭の中から此方は見えているらしい。
また今まで聞こえたどの声とも違う、中世的な間延びした声が聞こえた。
「……近藤 蓮様でいらっしゃいますよね?」
さっき聞こえた声が響く。何番目かは忘れた。
「はぁ、そうですけど。」
「私たちは貴方の元に送られてきたんですー。」
最初の声。
「とりあえず、害の無いものだし、間違っても君からお金取る訳じゃないから、出してくれないか?その札をはがしてくれれば契約って事になって出れるから。」
なんかイヤミな感じの少年の声が聞こえた。
「わぁったか!!いいから出せこら!」
「早くはがすのだ!こんな所で騒いでいたら変な注目を買うだろう!このウスノロがぁぁ!!」
「ああぁ、そんな仰り方は駄目ですうぅぅ、チュン様あぁぁ〜…」
「だぁぁ、うるっさい!!!!」
あんまりにも蒸篭の中がピーチクパーチク煩いので、結局最終的に俺が切れた。
いいやもう。
どうせ今日死ぬんだし。
蒸篭の中身に言われるがまま、貼られていた札を勢いよくはがした。